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封入体筋炎

Inclusion Body Myositis

疾患の概要

筋内鞘の炎症性細胞浸潤、筋線維の細胞質と核内に線維性封入体、縁取空胞で筋病理学的に診断される炎症性ミオパチーの1類型である。臨床的には慢性の経過で四肢および嚥下機能をおかし、経過は緩徐進行性で副腎皮質ステロイドによる効果はないかあっても一時的である。通常50歳以後に発症し皮膚筋炎、多発筋炎とは異なり男性に多い。

歴史

筋線維内に線維性封入体が存在する筋炎は1960年代から記載され、myxovirusとの形態的類似性から筋肉の遅発性ウィルス感染症と推定された1)が、現在はこの考え方は否定されている。封入体筋炎という病名が初めて使われたのは1971年Yunis and Samahaがこの疾患に特異的な核内および細胞質内の線維性性封入体と縁取空胞のある慢性進行性の筋炎患者を臨床的にも特徴ある疾患として報告したときである2)。その後、筋線維内にアミロイドが存在すること3)、封入体にはアミロイド前駆たんぱくやリン酸化タウが証明できること4)など、アルツハイマー病との相同性が指摘されるようになり、注目を集めるようになっている。

疫学

西オーストラリアのデータでは有病率は人口10万あたり0.93、男女比はおよそ3:2、平均発症年齢は56.6歳とされている5)。50歳以上の発症が80%。大部分が孤発例であるが、家族性の症例の報告もある6)。

症状

初発症状は下肢とくに立ち上がり動作や階段昇降70%、上肢とくに遠位機能15%、嚥下困難10%である。近位筋優位の症例が多いが遠位筋優位の症例もある。左右差がめだつ症例もまれでない。下肢は大腿屈筋群の障害に比して大腿四頭筋の障害がめだつ。30%程度に嚥下障害がみられる。他の免疫疾患合併の報告はあるが、悪性腫瘍の合併については皮膚筋炎や多発筋炎のような関連はないと考えられている。

検査所見

血清CK値は正常ないし正常上限の数倍程度の上昇にとどまる。筋電図は基本的には筋原性の変化であるが、筋線維収縮電位が豊富にみられたり、高振幅電位が混在したり、長持続時間電位がめだったりして、神経原性変化と解釈される場合がある。筋生検で運動神経の変性像がみられること、運動神経伝導速度の遅延が時にみられること、感覚障害がしばしばみられることなどから末梢神経の障害を合併することがあるとされることが多いが、単一筋線維筋電図やマクロ筋電図を用いた研究結果から神経原性の根拠はないと主張するものもある。

画像診断

骨格筋CT像を図1に示す。最も特徴的なのは大腿四頭筋の萎縮である(図1の症例では大腿直筋は比較的保たれている)。腓腹筋の内側頭に脂肪浸潤がみられる。そのほか、下肢と臀部の筋、傍脊柱筋に広汎に虫食い状の低吸収領域がみられる。MRIでは多発筋炎と比較して、萎縮や脂肪置換をきたしやすいこと、広範囲な病変が現れやすいこと、遠位筋優位の分布になることがより多いこと、左右非対称の分布をとりやすいことなどが報告されており、臨床的には可能性が高いと思われても筋生検で確定的な所見が出ず、多発筋炎との鑑別に迷うときには参考にすべきである。

筋病理所見

1)炎症細胞浸潤 主として筋内鞘にみられ、非壊死線維の内部に浸潤する様子がみられる。CD8陽性細胞とマクロファージが主体。
2)縁取り空胞 コンゴー赤染色で染まる。
3)核および細胞質内に15-18nmの管状線維からなる封入体。タウ、ユビキチン、βアミロイドなどのたんぱくの免疫原性をもつ。
4)チトクロームオキシダーゼ陰性線維の存在。
5)多くの筋線維がMHC-1陽性。

診断

封入体筋炎は基本的に病理学的な概念であり、年齢、症状、経過から本性を疑って筋生検を行い、炎症細胞浸潤、縁取空胞、封入体の3つの所見により診断を確定する。しかし生検部位あるいは生検時期の問題により必ずしも縁取り空胞や封入体が観察できないこともある。その場合多発筋炎と診断されていることも少なくない。多発筋炎と診断されている患者で、ステロイドの効果が乏しい場合封入体筋炎ではないかと考え直してみる必要があろう。進行性の四肢体幹の筋萎縮と嚥下障害に加えて脱神経所見を示唆するまぎらわしい筋電図がみられたときに筋萎縮性側索硬化症と診断されることがあるので注意を要する。

文献

1)Chou S-M: Myxovirus-like structures in a case of human chronic polymyositis. 158: 1453-5, 1967
2)Yunis E, Samaha F: Inclusion body myositis. Lab Invest 25: 240-8, 1971
3)Mendel JR, Sahenk Z, Gales T, Paul L: Amyloid filaments in inclusion body myositis. Novel findings provide insight into nature of filaments. Arch Neurol 48: 1229, 1991
4) Askanas V, Engel, WK: Inclusion-body myositis: a myodegenerative conformational disorder associated with A-beta, protein misfolding, and proteasome inhibition. Neurology 66 (suppl. 1): S39-S48, 2006.
5) Phillips BA, Zilko PJ, Mastaglia FL: Prevalence of sporadic inclusion body myositis in Western Australia. Muscle Nerve 23: 970-2, 2000
6) Baumbach LL, Neville HE, Ringel SP, Garcia C, Sujansky E: Familial inclusion body myositis: evidence for autosomal dominant inheritance. (Abstract) Am. J. Hum. Genet. 47 (suppl.): A48, 1990.
7) Griggs RC, Askanas V, DiMauro S, Engel A, Karpati G, Mendell JR, Rowland LP: Inclusion body myositis and myopathies. Annals of Neurology 38: 705-13. 1995

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